男の言い分

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男の言い分

男に言わせれば、この世はなんとつまらぬものだろうか。 なんのために、学をつけるのか。 なんのために、発展を遂げるのか。 他のものが持ち合わせない疑念と懐疑心と興味を、男はもっていた。他の魔術師からは感じられない個性や独創性を、男は発源した時から持ち合わせていた。だからこの世が、生きづらかった。息の詰まるような学生時代からずっと男は、ただただ、受け渡される過多な情報をひたすらに浴び、卒業してからはその知識をほんの少しだけ活かしながら、生きる意味を探していた。 その、男の生きる意味の答えに最も近いもの…しかしまだ答えとは言えない程度の存在が、演劇だった。学生時代に勉学の一環として見せられた演劇は、それはそれは高尚で、美しく、心を打つものだった。しかしそれは同時に高価で上流じみた匂いのするつまらないものでもあった。男はそのアイロニーにハマり、この落ちぶれた自分が、この大舞台に豪華な演劇を作り出すことができたなら、それはどんなに魅力的なものだろうという思いに取り憑かれ、あれこれと妄想を始めたのだった。 そうこうするうち男は、魔術師の誰もが持たぬ趣味として、劇作家をし始めたのである。といっても、彼の作品は自己満足に過ぎず、ちっぽけな喚き散らす変人の1人として、数少ない魔術師界の演劇家達も取り合わなかったため、男はほったて小屋の変人にとどまるばかりなのだった。
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