この手を離さないように…

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インターホンがあるのに、なぜノック? 「はい…」 勢いって不思議。 相手を確認してもいないのに無意識ながら開けているのだから。 この来客が仮に不審者でも文句は言えないな。 「おはよ」 「然さん…」 白いTシャツに紺色の七分丈のカーディガンを羽織った彼。 朝早くに会ってもあいかわらず肌質の良い爽やかさは健在。 「もう出発なんだね。  何時の新幹線?」 「えっと…  昼過ぎのに乗る予定。」 「そっか…」 言ったきり向き合ったまま お互い何も言わず目を逸らして俯いたまま。 チラチラと彼の顔を伺いつつ こういう時の別れ際って どんな言葉で締めたらいいんだろう。 『元気でね』『頑張ってね』『さようなら』 ありきたりなのしか出てこない。 下手にペラペラ喋り出したら感情が乗っかってきそうで危ないし。 そうだよ。鍵を返して逃げるが勝ち。 「これ、お返しします」 「うん、ありがとう」 スペアを含めたカードキー2枚を手渡し 然さんに受け取ってもらったから本格的に終盤だ。
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