この手を離さないように…

16/25
220人が本棚に入れています
本棚に追加
/175ページ
この笑顔が その結果だ。 俺はそんな彼女に惚れたんだ。 最初に出会った時は 下を向いて存在を消そうとしているとさえ感じた。 そんな彼女が 今は顔を上げて笑っている。 自分の中で何か見つけたのかもしれない。 だから歩き出したのに。 「俺は何やってんだッ」 手の指に力が入り 持っていた写真の隅をクシャと皺を作ってしまった。 自分の情けなさに嫌気がさす。 逃げてどうするんだ。 会社も由凪さんも守れなくてどうする。 好きな人の傍にいたい。 ただその気持ちだけ 純粋にまっすぐ素直にならなくて 俺は馬鹿か! 「まだ間に合うかッ」 事務所の壁に掛かっている時計は 11時をまわっている。 昼過ぎの便だと言っていたけど 今から車で飛ばせば1時間なら間に合うはずか? 実際、何分の新幹線に乗るのか聞いていないし 今から調べても遅くなるだけ。 だったら、ダメ元で向かうだけだ! 新多から渡された写真と デスクの上に置いていた財布と車の鍵だけ掴むと 俺は事務所を飛び出した。
/175ページ

最初のコメントを投稿しよう!