この手を離さないように…

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「綺咲さんのところに行くの…?」 察してはいたんだろう。 呼び止めた理由は 聞かなくてもなんとなくわかる。 美南の俺に対する気持ちはずっと知っていたから。 だからまた突き放すのは 俺にとっても正直、結構キツイ。 それでもあの人の事しか 今の俺の中には、ない。 「美南…」 「わかってるからッ」 自分の気持ちをしっかりと伝えようとしたとき 彼女はそれを遮った。 厳しい表情で唇を噛みしめ 握りしめた両手と小刻みに震える肩。 それでも必死に声を出した。 「私に対する気持ちも綺咲さんの事も  然の気持ち、わかってるから。  誰かのために  あんなに必死に走る貴方は初めて見た…」 俺は、何も言えなかった。 確かに今まで仕事人間でやってきて そのために全力で走ってきたけれど 誰かのためになんて 考えた事すらなかったんだ。 「もう…大切な人を手放しちゃダメだよ、然」 『さよなら』と涙を零す美南。 こんな時なのに開くエレベーターの扉。 「ごめん、美南」 精一杯、声を震わせて発してくれた美南に 目を合わせて頭を下げ 俺は先を進んだ――――
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