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『俺は間違ってた!
離れる事が、手放す事が良いんだって
そんなの間違っていたんだ!』
受話口から聞こえてきた叫びにも似た然さんの声に
私は黙って聞いていた。
『仕事か恋愛か
どちらかだけを選ぶとか偉そうな事を言って
それで良いって自己完結の満足で自分の身勝手なワガママに
最後の最後まで由凪さんを傷つけた!』
「然さん…」
言葉1つ1つに
せっかく決意していた心が揺さぶられて
こんな事で左右されるなんて、そんなの絶対ダメなのに。
耳元に当てているスマホを握る手に力が入り
言ってしまいそうになる。
貴方が好きって…
『綺麗ごとばかり並べず
本音で、ちゃんと由凪さんに伝えたい。
俺の想いを。』
先程とは違い
息切れで弾んでいた声は落ち着きを取り戻し
いつもの冷静な然さんに戻っている。
「伝えたい…こと?」
ゴクリと息を呑み
彼に質問を投げかけた時だ―――
駅のホーム内に響く
発車のアナウンスとメロディー。
同時に、電話の向こうからも同じ音が耳に届いてハッとした。
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