事の発端は。

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撮影は順調に進みーーー 「はい、じゃぁ20分ほど休憩で!」 ディレクターの声に全員が手を止め モデルの彼も近くの椅子へと腰掛けた。 …と、ふと気がついた。 「あ、飲み物…」 誰も彼に水分補給するものを渡していない。 と言うより何も準備されていなかったみたい。 撮影に意識が向かいすぎたための初歩的すぎるミスだ。 『彼が何を飲むか、まずは聞いてから準備』と この後に及んでまだ冷静な私は彼の席まで行き… 「お飲み物をご用意します。  お水かお茶、冷たいか温かいのか…  どうなさいましょうか」 「ありがとうございます。  じゃぁ…冷たいお茶で。」 「かしこまりました」 彼は目を合わせて返事をしてくれたのだけど。 女性社員の視線が面倒だから 私はほとんど彼の顔は見ずに淡々と用件のみで会話は終了。 すぐにその場をあとにした。 そんな私の後ろ姿を 彼が目で追っていた事も知らずに――― 撮影現場から少し離れたところで 紙コップにお茶を注いで準備していた私に… 「あの、聞いても?」 斜め後ろから声を掛けてきた彼。
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