事の発端は。

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元々この人がいるモデル事務所とは社長同士が仲が良く、宣伝広告も含めて何度も世話になっている関係。 そんな会社の”トップ”と呼ばれる社長の右腕に 私みたいな日陰の社員が口を出せば…想像が出来る。 全てが崩れるのが目に見えるだけに やりきれない気持ちになる。 「や、やめてください…」 羞恥の葛藤に打ちひしがれながら 精一杯、抵抗の言葉を伝えたけれど――― 「…そんな顔も出来るんだ」 「え?」 「もしかして  俺を誘ってる?」 ・・・・は? 伝わっていないどころか想像以上の彼の思考に 私は呆気なく撃沈。 誰がどうしてこの状況で ”誘惑”なんかしなきゃいけないの。 「鳴瀬さん  そろそろ次の撮影をお願いします」 幸か不幸か このタイミングでディレクターが彼を呼びに来た。 「わかりました。  すぐに行きます」 そう言ってニコリと笑顔で返した彼は 再び私に顔を向け。 「タイムオーバーみたい。  これ、返しますね」 そう言って 外された眼鏡を今度は掛け直してくれた。
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