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真木涼。二七歳。 もちろん独身。 背丈は160前後と女性としては平均的。長めの前髪を左右に分け、染めているのか地毛なのか、少し茶色いショートカットだ。 脂肪も筋肉もなく中性的で、発達途中の男子中学生のように華奢な印象を受ける。 服の下の乳房や下半身、その中身がどうなってるかはわからないが、髭の黒ずみもないし、もみ上げもない。いわゆるホルモン治療もしていないように思える。 「待ったぁ?」 クラブの女みたいにしなを作り、運転席側のドアを開ける。普段はぶっきらぼうだが、こんな細く高い声も出るあたり、声帯もいじってないと思う。 その美しさに見惚れ、ほんの少し胸がざわついたのは初めの一瞬で、この1ヶ月間ですぐにその希薄な人間性に唖然とした。 「真木さーん、下花町の江口さんから電話です」 総務の三咲が電話繋ごうとしても、 「あのばーさんボケてっから話終わらねーんだよ。いないって言って」 と逃げ、 「アイランドベッドの塚原さんから、ベッド引き上げの催促来てるって。先月亡くなった田村様の分」と輸送係の達雄さんが怒鳴っても、 「そんな怒んないでくださいよー。どっかで時間見つけてやって来ます。来週あたり」 とぶん投げ、 市役所から介護保険適用の手すり取り付けの書類不備の連絡が来たときには、 「えー。固いこと言わないで。適当に書いといてよ。仁美ちゃん、今度一杯おごるからさ」 と電話なのをいいことに無表情でナンパする。 同行前から大体わかっていた。 仕事も適当なら、利用者に対する思い入れもない。 誰かを嫌わない代わりに情を寄せることもない。 他の社員に本人公認のもとフリーズドライと呼ばれている。 とにかく表向きだけで、自分に甘くて、その場かぎりのノリで人間関係繋いでいるような。 それでいて不思議と周りに人が集まり、ちやほやと甘やかす。 そしてなぜかーーー女にはすこぶるモテる。 社会復帰と人生をかけた職場で、こんな人間に当たってしまうとはーーー。
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