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◇◇◇◇◇ 「あの人はさ」 外用の歩行器を積んで、車に乗ったとたん真木が話し出した。 「5年前に心筋梗塞で倒れてからの付き合いなんだ。糖尿病も発症しててさ、その影響で足に力入んないの」 「浮腫、ひどかったですもんね」 大きい目がこれでもかというくらい覗きこんでくる。 「何すか」 「よく気がついたな。漬物しか見てねーかと思った」 先程の醜態を思い出しまた赤面する。 「おお。ゆでダコかよ」 「あんまり褒められなれてないので」 「お前、そういうとこはかわいいのな」 笑いながら作業書に書き込んでいる。 「トキ子さんは、本当なら軽い要支援判定じゃなくて、要介護でいーんだよ。なのに一人暮らしで何でもかんでも自分でやってるから、自立度レベルでは要支援2なんだよな。 単位数もギリギリで、週1回ヘルパーが部屋の掃除してるけど、家中とまでは儘ならなくて、歩行器もすぐ埃巻き込んで車輪が回らなくなる」 「だから歩行噐も交換なんですね」 「そーゆうこと」 「転倒したら危ないですもんね。そういう意味で利用者さんを守るのが仕事なんですもんね」 「いや、どっちかつーと自分のためかな」 「え?」 「歩行噐使用中に転倒でもされてみろよ。高齢者なんてすぐ骨折するぞ?そうなったら、利用者も利用者家族も、始めに責めるのは俺たちサービス事業者だからな」 「はあ」 「それまでろくに点検してなかったくせに、よく見ればゴミが溜まってただの、タイヤの空気が抜けてただの、車イスクッションがへたってただの、後出しでいくらでも出てくる。そういう苦情から自分を守るためにやってんだよ」 「そうなんですか」 「メンテナンスの指示書、出しといて」 少なからず落胆した。 フリーズドライ。 表面上の愛想のよさの奥で、こんなことを思っていたとは。
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