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1時間後、膝にブロック折り紙でできた立体のフクロウを抱っこしたまま、真木は九石の二の腕を小突いた。 「何勝手なことしてんだ、お前は!」 強制的に田村家に連れていかれ、庭の手入れをしていた娘に見つかって、そのまま家に招かれ、お茶をして、この紙細工を貰って、の帰り道だった。 「だって、喜んでたじゃないですか。サボって寝てる時間、少しお茶のみに当てて上げてもいいんじゃないですか。そんなに可愛い土産までもらって、何が不満なんですか」 言うと腹の底からかき集めたようなため息を吐いて、こちらを睨んだ。 「勘違いすんな。俺は何も面倒だったから行かないわけじゃない」 「寝たかったからですか?」 「お前、いい加減にしろよ」 珍しく凄まれる。 「いいか。介護に百点満点はない。利用者家族つーのは、あのときああしてあげれば、何であのときこんなこと言っちゃったんだろうと、悔やむものなんだよ。その介護者のために、自分のやりたいことも時間も全部裂かれて、やれるだけのことをやったとしても、だ」 言わんとしていることがわからず黙ると、いくらか、トーンダウンしてから続ける。 「利用者が死んだら、やっと自分の人生が再開されるんだよ。それなのに利用者の関係者である俺たちにダラダラ会ってたら、また後悔の波が沸いて、その渦から抜け出せなくなる。それではいつまで経っても前に進められないだろ。 ばっさり関係は切ってやったほうがいいんだ。家族のために」 真木の顔を改めて見る。 ーーー何がフリーズドライだ。この人……。 「……利用者さんやご家族のこと、すごく考えてるんですね、真木さんって」 「そんな愛溢れる話じゃねーよ。こういう仕事してるとわかってくんの。だから、お前、そういう意味ではまだ素人なんだから勝手なことすんなよ」 「ーーーでも、そうでしょうか」 「はあ?」 「確かな一歩を踏み出すために、利用者のことをこれでもかと思い出して悔いて、それでもやるだけやったんだと、納得することも必要だと思います」 大きい目がこちらに向き直る。 視線が上から下まで一巡する。人を軽蔑するときにする動きだ。 「ーー随分、わかったような口を利くんだな」 でも退けない。間違ったことをしたとは思えない。 「これでもかと想い、後悔しきらなければ、前になんて進めない人もいますよ」 何かを言おうとした口を結んで真木がこちらを睨む。 「真木さんは大切な人を失ったことないんですか?」 走行中の車体がドンと揺れた。真木がグローブボックスを蹴ったらしい。 次の言葉に怯えながらハンドルを握る。しかし、真木は窓の外を見たまま、一言も発しなかった。
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