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それからの毎日は搬入出がある日もない日も、四六時中、真木は九石を連れて歩いた。
車イスの使い方を認知症の利用者に繰り返し熱心に教えるのをメモしつつ、助手席で昼寝をする横顔を見ては呆れ、カビたシャワーチェアにハイターを振りかけるのを手伝い、一人暮らしの止めどない電話を聞いているふりして他の仕事をしているのを横目に見て、感心したり、呆れたりしながら、月日は過ぎていった。
年末を目前に控えたある日、いつも定時一分前に出社して、定時の6時1分過ぎに帰っていく真木が、6時半を回っても珍しくパソコンの前から席を立とうとしないので、一応聞いてみた。
「あの、何かすることありますか」
サービス計画書でも作成しているのかと覗き込むと、パチスロの動画を見ていた。
「ああ。7時から担会入っててよ。帰ってていいよ」
「たんかい?」
「担当者会議」
向かい側に座っていた金原が顔をあげる。
「利用者さんに関わっているサービス事業所が、一同に介して、ケアマネを中心に、介護保険での利用を確認し合う会議ってこと。まだ参加したことなかったっけ」
「あ、はい」
「担会が重なる月末はオムツ配送に回ってるからな~」
目が疲れたのか、真木は手でゴシゴシと擦っている。
「勉強になるからついて行ってみたら?予定がなければだけど。一応うちの会社、残業代はきちんと出るしさ」
金原が勧める。
真木を見ると、
「来てもいーけど、なかなか癖のある家族だぞ。それでもいいなら」
「あ、はい!お願いしーーー」
言い終わる前に黒いファイルが飛んできた。
「利用者は、畠山佳子さん、93歳。平日のデイサービス利用と、土日は朝、昼、夕にヘルパーが入っている。朝夕の訪問介護は毎日。用具は2モーターベッドと床ずれ予防マットレス、介助式車イス、外階段に2650のスロープ」
ファイルを捲りながら必死に情報を頭に入れる。
「今日はショートステイ追加の会議。デイが無い土日は全部ショートに入れたいらしい」
「全部、ですか…」
「そー。全部」
悲しいことにそういう家は意外に多い。昔と違って単世帯が多くなってきたことと、若い世代が夫婦共に定年まで働く場合が増えているため、家族に介護が出来ないのだ。
珍しくはない。わかってはいても、いざその現実を目の当たりにすると、頭にくる。
九石は誰にも気づかれないように、小さくため息をついた。
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