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◇◇◇◇◇ 夜の会議は想像した以上に散々だった。 普段なら真木に会うと色めきだつケアマネージャーや看護師、ヘルパーまで、重苦しい雰囲気に包まれた和室で、利用者の息子が腕組みをしていた。 「ショートステイを増やすのはいいのですが、単位数がもう残っていないので、ヘルパーさんを追加できません。ですので、ショートための準備はできればご家族でお願いしたいんです」 ケアマネージャーの大貫が苦笑いで息子に切り込む。 「家族って私しかいませんけど。つまりはどんなことをすればいいんですか」 「これが持ち物のリストなんですが」 ショートステイ先の“青い鳥”職員がA4の紙を見せる。 「これらをリュックに入れて、待機していてほしいのです」 息子は顔をしかめながらそれを見た。 「下着にオムツにタオル?そんな準備、自費になってもいいからヘルパーを追加してくれ」 「調べてみたんですけど、朝の時間は混んでいて、たとえ自費であろうと、今は空き待ちの状態です。 どうしても準備が大変ということであれば、今、現在入ってもらっている、オムツ交換、清拭、着替えのヘルパーさんの時間を、準備に当ててもらって、オムツ交換はご家族でしていただかないと」 同席しているヘルパーも頷く。 「ーーそんなこと、男にできるか!知ってるでしょう。うちは早くに女房をなくし、子どもたちもみんな嫁いで女手がないんだ。我が家に介護できる人間はいないんだよ」 大貫が目を細めながら言う。 「……ではやはり施設も検討してみてはいかがですか」 「そんな月十何万も掛けて、近所や親戚に白い目で見られるようなところに入れられるか!」 息子が声を張り上げたところで、奥の襖が開く。 「あら、敏夫。こんな時間に誰かいらっしゃったの」 本人の佳子だった。 「佳子さーん」 大貫がニコニコと手を振る。合わせて各事業所のメンバーも手を振る。 「ーーいいから婆さんは休んでて下さい!」 息子が厳しい声で言う。 「あら、見たことあるわ。誰でしたっけ」 「大貫です」 「ああ、そうそう。大貫さん。なんでこんな朝早くから?」 「婆さん!いいから寝てろ!」 声を張り上げると同時に、襖を強引に閉め、居間は重い空気のまま静まり返った。
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