プロローグ

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「お待たせしてすみません」 そう言うと彼の気配が消えないように気を付けながら、アクセルを踏み込んだ。 見なくてもわかるのだが、形式上、胸ポケットからわざわざ取り出して確認する。 『次は……スタンドだな?』 真木が前を見たまま答える。 小さく頷くと、高速直前にあるネオレスに入る。 「いらっしゃいあせー!!」 元気のいい褐色の青年が走りよってくる。 「レギュラー満タンで」 「はい!ありがとうございます!内拭きお使いください!タバコの吸い殻ないですか」 ちらりと助手席を見るが、真木がしっしと払うように拒否をする。 「大丈夫です」 「窓お拭きしてもいいすかー?」  「お願いします。あ、あと」 真木の気配をうかがいつつ、少しゆっくり言う。 「空気圧も見てくれますか。遠出するんで」 「かしこまりました!こちら中拭きです、お使いください!」 青いタオルを渡して、青年はせっせと窓を拭き始めてしまった。 ドッ ドッ ドッ ドッ 心臓が高鳴る。これで終わりか? 「23リットル満タン入りました!」 青年が戻ってきてカードを返す。 「内拭き失礼しまっす!」 青いタオルを受け取り、レシートを渡そうとする青年に慌てて聞いてみる。 「空気圧は大丈夫でしたか?」  「はい!大丈夫です!」 青年はひまわりのようなカラッとした笑顔で微笑むと、レシートにサインを求めた。 ーーーここまでか。 半ば諦めながらペンを受け取ると、 「……どちらまで行かれるんですか?」 名前を書く手が震えた。 「と、栃木まで」 声まで震える。 「まじすかー。ここからだと3時間くらいすかね」 「そうだね」 「どうぞお気をつけて!」 言うと青年はまた百点満点の笑顔を見せた。 車を発進させると、思わず安堵のため息が口からこぼれた。 「ギリだな、ギリ」 横から真木の乾いた笑い声が聞こえてきた。 「大体、この二番目が難しすぎるんですよ」 付箋の二項目を睨む。 「当たり前だ。だから意味があるんだろうがー」 新たなタバコに火をつけつつ、真木が笑う。 「最後はもっと難関だぞ。神の御加護があらんことを」 相変わらず揺らめく白い煙からは、何の匂いもしなかった。
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