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「おっかえりー」
事務所のドアを開けると、いつもはいない課長が座っていた。
「あ、お疲れ様です!」
慌てて頭を下げると、嬉しそうに近づいてきた。
「おお!期待の新人君!遅くまでご苦労様!!どーだ、仲直りしたかい?」
肩を組んでくる。酒と煙草の匂いが鼻をつく。
「あ、はい!日々勉強させていただいてます!」
「真木の元で?」
外川が吹き出す。
「笑うとこじゃないすよ」
真木も笑っている。
「いや、いい!実にいい!励め!励みたまえ!新人君!俺は応援してるぞ!」
「ありがとうございます」
「九石君、酔っぱらいの相手しない方がいいよー。ほんと手に負えないんだから」
三咲がうんざりしたように頬杖をつく。
「何ー。冷たいじゃないのー。三咲ちゃん。遊んで飲んでたんじゃないよ!光命会の接待よー?じゃなきゃ誰があんな親父臭いとこなんか行くかよー!」
言いながら自分のスーツを嗅ぎ顔をしかめている。
「あー、くさ」
脱ぎ捨て、九石の顔にかける。
「お願ーい、これ掛けといてー」
「最っ低。捨てていーよ、九石君」
三咲が睨む。
応接用の長ソファに身を投げ出すと外川は靴下を脱いだ。
「ストーブは消していいからエアコンだけ消さないで。おれ、ちょっとここで酔い冷まして帰るわ」
「えー?奥さんに怒られますよ」
「だいじょーぶ。とっくに寝てる」
「……もう。私たち帰りますよ?!ね、九石君も!」
三咲がハンドバッグ片手に立ち上がる。
「いーよ帰って。お疲れー。あ、真木ー忘れないうちに言っとくけどー」
言いながらソファに倒れこむ。
「俺の机の軽度者リストの主治医確認書、それだけチェックしといて。明日でいーから」
「はいはい」
真木がデスクの上をチラッと見る。
「さ、いこ!」
なぜか慌てた様子の三咲に手を引かれるまま、部屋を後にする。
閉まるドアの間で、真木が手を振っていた。
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