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「真木ー。トキ子さんのデモの歩行器来たんだけどよ」
達雄が指示書を机に置きながら言った。
「この型式、『結の湖』から卸しで、引き上げたやつを、すぐ消毒メンテして中古販売したいんだと。悪いけど今日中行けるか?」
「りょーかい」
言いながらトキ子さんのファイルを漁る。
「あ、やべ。今日デイサービスの日だ。夕方行くしかねーな」
作業書の束を見ながら言う。
「中嶋さんのマットレス、エアマットに入れ替えしてからそのまま回るー。九石、2件の消毒指示書出しておいてー」
言いながら椅子をスライドさせて、窓際に移動する。
「…水曜日なのになー」
独り言のように小さい声でつぶやく。
「なんか予定でもあるんですか」
「見たい番組があんだよー」
窓の結露にアンマンマンを描きながら言った。
「アンマンマンは木曜日ですよ」
「何でそんなこと知ってんだ、お前」
真木が笑う。
ーー真木こそ、テレビにかじりついて何かを見るタイプじゃない。
予定でもあるのか?
誰と?
浮かんでくる嫉妬心を振り払うように、九石は白紙の指示書を埋めていった。
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