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病院の待合室には九石たちの他に、ケアマネージャーの津川、訪問看護士が、それぞれ椅子にかけていた。
津川が配った缶コーヒーを皆黙って口に運ぶ。
と、手術着を身につけた医者と、30そこそこの若い男女が長い廊下の端から歩いてきた。
「……お祖母ちゃん、助かりました!」
女性の方が、大きい目いっぱいに涙を溜めて、津川に言う。
その姿を見ながら、医者は一礼して、医局に去っていった。
「また心筋梗塞ですって。倒れて間もなくケアハートさんが見つけて、救急車呼んでくれたおかげで助かったんです。
的確な心肺蘇生で、脳にダメージもほとんどないって」
孫娘が真木と九石の手を交互に握る。
「命の恩人です!本当にありがとうございました。ぜひ後日お礼をさせてください」
後ろに立っていた、婚約者と思われるバンドでもやっていそうな派手な男も、見た目に反して神妙な顔で頷く。
真木が少し掠れた声で微笑んだ。
「お礼はトキ子さんの漬け物でいいっす。それよりトキ子さんのとこについててあげてください。俺たちはこれで失礼するんで」
九石の腕をつかんで一緒に立ち上がらせる。
「あの!ありがとうございました!」
孫が一礼する。
真木がその顔を見て、ふっと息をはく。
「……かわいい花嫁になるだろうな」
「え?」
「トキ子さん、あなたの結婚式出るの楽しみだって。俺が折った肋骨にサポーターは必要だろうけど、連れてってやってよ」
「……はい!」
涙と笑顔でぐちゃぐちゃの顔で頷くのを見て、「はは」と真木もいつもの笑顔に戻った。
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