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次の日出社すると、喫煙所にいつものメンバーが屯して笑っていた。金原、安藤、達雄、岡田、そして、真木ーーー。
正直どんな顔をして会っていいのかわからなかったので、他に人がいて助かった。
「おはようございます」
声をかけると、それぞれからだるそうな返事を返す。その中で金原が顔を上げた。
「九石ー。真木から聞いたぞ。利用者の容態が急変したって?」
「あ、はい」
そうだ。そんなことがあったのに、真木のことで頭が埋め尽くされて、今の今まですっかり忘れていた。
「ビビるよなー。いやいや、よくチビらなかったよ。えらいえらい」
金原が笑いながら肩を叩く。
「いや、実際チビるどころじゃなかったってのが、本当のところで…。真木さんがいなかったらどうしてよかったかわからなかったです」
「え、マジで真木さんが蘇生したんすか」
岡田が目を丸くする。
「はい。心臓マッサージと人工呼吸、生でやってるの初めて見ました。かっこよかったです」
言いながら端に座っている小さな後ろ姿を盗み見る。その隣に座っている安藤が笑いながら言う。
「気持ち悪がったくせによく言うわ、だと」
「え」
思わず駆け寄る。
「誰も気持ち悪がってなんてないすよ!」
「触るなって言っただろ」
横目でこちらを睨んでいる。
なんだ、そんなことを気にしていたのか。
「何?その面白そうな話題」
金原がニヤつきながら近寄ってくる。
「こいつが腰抜かしたからツンツンしたら。触るなって拒否されたんだよ。お嬢様かっての」
真木が足元の雪をいじりながらそっぽを向く。
岡田も笑う。
「あーあ。真木さん傷つけちゃった。意外と繊細なんだから気をつけてくださいよ、九石さん」
「俺はそんなつもりじゃなくて……」
慌てて弁解しようとするが、真木は立ち上がった。
「いーよ、別に。変に惚れられるより、気持ち悪がられたほうが百倍マシだ」
安藤が尚も笑いながら言う。
「菅井だったか?あいつ」
「懐かしーい!」
金原が手を叩く。
「あれだろ、九石の前に入ってきて、一瞬で真木に惚れて、玉砕して、ショックで辞めたってやつ」
ーーー初耳だ。
「FTMが珍しかっただけだろ。単にさ」
言い切った真木は事務所の扉を開けて入っていってしまった。
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