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少なからずショックを受けた。 ーーー男に惚れられるのは、迷惑ってことか…。 「あー、その話、マジなんですか。俺、真木さんのお得意の嘘かと思ってました」 「まぁ、あいつの言うこと8割型嘘だからなー」 金原の言葉に一同が頷く。 「どうせ、俺たちのこともデタラメ吹き込んでますよ。ね、九石さん。俺のことなんていってました?」 「……ネトゲ廃人って言ってました」 「はあ?ナロー」 真木が去っていった方向を岡田が睨む。 「じゃあ安藤さんのことは?」 「ヤクザあがりで、小指が変な向きでついてるって」 「あいつ……」 安藤は煙草を咥えたまま、空を仰いだ。 金原が覗き込む。 「俺は俺は?」 「金原さんは幼女趣味で。課長の娘を、ストーカーしてたって」 「ーーーあの、自動ホラ吹き器!」  主役のいなくなった喫煙所は笑いに包まれた。 「それで?真木はいなくなったから、本当のことを話してみろよ、九石」 安藤が大きな手で頭を鷲掴みにしてくる。 「お前もどうせ、菅井と同じで、あいつに絆されたんだろ」 「え……なっ!?」 「隠すな隠すな。時間の無駄だ。バレバレだから。俺等からしたら」 ーーーバレバレってなんだ? 「誰もが通る道なんだ」 金原が遠い目をして続ける。 「あいつの見かけに騙され、上部の性格に絆され、一度は流されるんだよ」 まるで自分にも経験があるように語る金原を見下ろす。 「ーーーだけどな、まもなく気づく。あいつは美しい女性でもなければ、男も惚れるイケメンでもない。ただの干からびたおっさんだってことに……」 聞いてた岡田が吹き出す。 「だから大丈夫だ。変な虫に噛まれたと思って忘れろ」 こちらも笑いながら続ける安藤に、金原が口を尖らせる。 「でも、真木のほうもまんざらじゃない反応してたと思いますけどね」 「なんだそりゃ」 「だって、さっきのマジでいじけてたでしょ」 安藤の顔が真顔に戻る。 「ーー馬鹿。下手に期待させんな」 チラリと九石を睨んだ後、静かに続けた。 「真木(アレ)は複雑で難しいぞ。俺らが考えているより、ずっとな」 言いながら煙草を灰皿に押しつぶす。 その赤い光が消えるのを見ながら、九石は何も言えなかった。
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