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数日後、美晴が大量に送りつけたメールのおかげか、彼女が働く店舗にAIが導入されることになった。
名前は山田アイ子。テレビで見たAIと違い、黒髪ショートで見た目は40代。程よく品のある、優しそうなおば様だ。
(どうせならイケメンか若くて可愛い女の子がよかったなぁ。そっちのが目の保養になるし)
予想より年増なのは少し残念だったが、これで客対応をせずに済むと思えばそれだけで気が楽になる。
11時過ぎ、昼前とあって少し混む時間。美晴が特売の人参を売り場に持っていく最中、60代の小太りの女性が声をかけてきた。
「ねぇちょっと!」
女性は美晴のカートを掴んで呼び止める。非常識な振る舞いに、内心舌打ちする。
「特売のアジってどこにあるの? お魚売り場ざーっと見たのに見当たらないんだけど!」
(そんなの青果担当の私が知るわけねーだろボケ)
内心毒づきながら近くに鮮魚担当者がいないか見回していると、アイ子がにこやかに声をかけてきた。
「いらっしゃいませ、お客様。何かお探しでしょうか?」
「あ? あぁ、アジってどこなの?」
「本日特売のアジですね。こちらへ」
アイ子は女性を鮮魚売り場に案内し始めた。美晴は急いで売り場へ行き、人参を並べる。
バックヤードへ戻る際、アイ子と女性の後ろを通ると、彼女は女性にアジを使ったレシピを教えていた。
「ふぅ、助かった……」
面倒な接客をやらずにすんだことにホッとしていると、内田がずかずかと作業場に入ってくる。内田は50代前半の男で、美晴がいる店舗も担当しているエリアマネージャーだ。横暴なゴリラ顔のこの男は、ほとんどの従業員に嫌われている。
「なんだここ、寒いな。チーフは?」
内田は舌打ちしながら毛むくじゃらの腕を擦ると、面倒くさそうに美晴に聞いた。
「事務室にいると思います」
「そうか。冷房消しとけよ。節電しないとダメだからな」
(この真夏に冷房消したら熱中症になるし、野菜腐るわこのゴリラジジィ)
内心悪態をついていると、内田の道を塞ぐように、アイ子が入ってきた。
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