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「あ? なんだよ?」
「内田マネージャー、先程の発言は規律違反です。生鮮果実や野菜を扱っている作業場の温度は、10℃前後を保たなければいけません。真夏に冷房を切ってしまったら、従業員は熱中症になります。何よりあなたのような方が作業場に入ると効率が一気に落ちてしまうと科学的に……」
「うるせーな! なんだよさっきから!」
内田の野太い怒声に怯える美晴だが、アイ子は笑顔のまま。それが返って恐ろしく見えた。
「申し遅れました。私はAI従業員の山田アイ子です。先程の発言はすべて録音させていただきました。本部に送信させていただきます」
アイ子はにこやかな顔を崩さないまま、店内アナウンスのようになめらかに言うと、一礼して青果の作業場から出ていった。内田は顔を真っ青にしながら、彼女の後を追いかける。
「従業員のケアまでしてくれるとか最高じゃん」
美晴は揺れる扉を拝むと、作業を再開させた。
数日後、社内はちょっとした騒ぎになった。何人もの重役がAI銃魚員によってクビになったという話で持ち切りだ。もちろん、その中に内田の名前もある。
クビになったのは重役だけではなく、ハラスメントをする従業員達もだ。そのおかげで青果部門にいたお局様も消えた。最初は人手不足で困ると思ったが、生き残った本社の人達が手伝いに来てくれる。
その間、AI従業員達は新しい従業員を補填し、教育を施した。
AIに教育された従業員達はある程度仕事ができるため、古株が教えることは少ない。そのため、ストレスも軽減される。
気づけばAIが店長になっている店舗も出てきた。美晴が働いている店舗も、アイ子が店長になった。彼女は従業員達の能力に合わせて時給を調整し、コンプライアンスを徹底的に守った。
結果、ほとんどの従業員の給料とモチベーションが上がり、商品の品質も上がった。数ヶ月前まで下がり気味だった売上も、徐々に上がっていったという。
ちなみに美晴の給料は、130円も上がった。おかげで生活にも気持ちにも余裕が出来て、暴言を吐く回数が激減した。
「AI万歳!」
これは美晴だけではなく、多くの国民が声を大にして発した言葉だ。この言葉を筆頭に、AIに関する言葉が流行語大賞にノミネートされていった。
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