AI導入

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AI導入

 2XXX年、AIの技術は進化し、ヒトとAIが共存して働くようになってきた。といっても、いつの時代もそういった技術を先に導入するのは東京など、栄えたところだ。 『こちらをご覧ください! みごとな接客をしているこちらの女性、実はAIなんです!』  テレビでは三十路のアナウンサーが興奮気味に、初老の男性と話している女性を手で示した。男性はごま塩がどこに売っているのかを聞き、女性はにこやかに案内をしている。  AIと紹介された女性は大手スーパーのきみどり色のエプロンと三角巾を身に着けている。見た目はどこにでもいる20代半ばの、少しキレイめな感じのいい女性だ。ナチュラルブラウンの髪をひとつにまとめ、薄化粧をしている。  もっと分かりやすく言うと、身だしなみチェックの見本写真みたいな女性だ。  老人はごま塩を受け取ると、アナウンサーのインタビューに答える。 『AIに案内してもらったご感想は?』 『嫌な顔もされないし、すぐに案内してくれるからいいね。人間の店員に聞くと、担当じゃないから人を読んで来るなんて言ってさ。お店の人なら全部覚えてなきゃ……』  電源を切られ、老人にアナウンサー、AIも画面から消してしまった。真っ黒になった液晶には、不機嫌そうな女性の顔が映る。 「うっせーバーカ! クソ老害! スーパーの商品全部覚えられるわけねーだろ!」  女性は暴言を吐くと、ペットボトルの紅茶を飲み干した。  彼女の名前は美晴。田舎町にあるスーパーの青果部門で、パートとして働いている。グラデーションに染めた髪をゆるやかなツインテールにし、もこもこの部屋着に身を包んでいる。  童顔で愛らしい顔は、先程のニュースのせいで台無しだ。 「なーにがお店の人なら全部覚えろだ! こちとら忙しいんだよ、お前の買い物に付き合ってやってる暇あるか! おまえらこそ自分で探せ!」  美晴は大声で喚き散らすと、ピンク色のマカロンクッションに顔を埋めた。 「あー仕事したくない。うちも導入してくれないかなぁ、AI」  ため息をつきながら、スマホで自社のホームページを開く。お問い合わせを見つけると、自分が持っているフリーアドレスをすべて使い、AIを導入して欲しいというメールを何件も送りつける。  本音を言えば自分がいる店舗にだけいればいいが、身バレを防ぐためにも別の店舗名を書いたり、あえて店舗名を書かないメールもいくつか混ぜた。
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