お届け物です

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お届け物です

数日して、例の歯磨き粉が届いた。B5サイズ程の段ボールに入ったそれはきちんと緩衝材に包まれて、高級そうな箱の蓋を開けると真っ白なボディーが現れた。蓋の部分よりも少し下の方に水色の細い線が一周していたが、ボディー部分にはメーカー名も特に書かれておらず水色の線以外は真っ白だった。 小さく四つ折りにされた説明書が同封されており、それを開くと「この歯磨き粉はあなたの歯を美しくしてくれます! どんなに汚れた歯でも心配要りません! それにそれに! 汚れを落とすだけでなく、ホワイトニングまでしてくれます! 強い研磨剤は入っていないので、あなたのを歯を傷つけて知覚過敏を誘発! なーんて事もありません。これを使ってあなたも美しい白い歯を手に入れましょう!」あの動画の軽快な女性の声が蘇って来そうな文体だったが、それ以外に成分表や使用上の注意的なものは何も無く、ハッキリ言って―― 「妖しい」 チカコは箱の底に入っていた請求書を睨み付けてそう言った。請求書の請求金額も500円とあり、益々妖しい。俗に言う“定期縛り”的な事も“2回目以降から徐々に上がって行く”何てお決まりな設定も無い。1回で止めても良いし、2回目も同じ500円でしかも送料込み。こんなんじゃ儲けなんてあったもんじゃない。寧ろ赤字なのではなかろうか。しかし、頼んでしまったし、箱も開けてしまった。未使用とはいえ、返品をする気にもなれない。取り合えずチカコは半信半疑で歯磨き粉を使う事にした。丁度、買い物するものもあったし、その序に請求書も払ってしまおうと思った。 「っと、その前に歯磨きしないと」 チカコは必ず、出かける前に歯磨きをするのが習慣になっていた。早速あの歯磨きを使う事にした。……が、どう考えても口が大きすぎる。ボディー部分は普通のチューブタイプなのに何故か口がこう、例えるなら調味料の蓋を全開にした時の様な大口サイズなのだ。歯磨き粉の中に歯ブラシを突っ込むのも気が引けるし、考えた挙句にそっと直掛けする事にした。そっと、そぉーっと慎重に傾けたのに、突然中身の流れが変わった。 「うわっ! うわわ!」 左手は歯ブラシが見えない程に歯磨き粉塗れになっていた。驚く程出たのに、中身は大して減っていなかった事に驚いた。それに手を包む歯磨き粉はもこもこしていて、手に乗っている感触すら感じさせなかった。それに、床には一滴も垂れていなかった。首を傾げながら、そのまま歯ブラシがあるであろうもこもこの歯磨き粉を口の中に入れた。 その瞬間だった。花の蜜の様な甘い香りと柑橘系の爽やかさと共にキシリトールの匂い。ちゃんと歯磨き粉の味がするのに、気分は全身をマッサージされている様な心地良さだった。歯磨きが終る事がこんなにも惜しいと思ったのは始めてだった。
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