桜と菊と。

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次の日も、その次の日も私は学校へ行かなかった。 否、行けなかった。 蒼菜の私に背を向けてゆく後ろ姿が目に焼き付いて離れない。 「最低だ、私。」 なんの関係もないあの子に八つ当たりして、きっと嫌われた。 いつもそうだ。私の友達だった人はみんな私から離れていく。他の人を選んで、私を見捨てて、私から遠ざかって。友達も、藤もみんな、いなくなった。 私は中学の頃いじめにあっていた。藤の1件があってから塞ぎ込む性格になってしまったせいか、周りから孤立していた。幼い頃から仲が良く、1番信じた友達も、結局私を裏切った。私がいじめられていると知って私をいじめる側へ回ったのだ。 人は、期待するからいけないのだ。期待した分だけ、裏切られた時の絶望は大きいから。 藤の時だって。 ずっと仲良く暮らしていくと思ってた。まさか、藤がいなくなるなんて思いもしていなかった。 2人で将来の夢の話をして、先の未来に期待して。 期待したからその未来が消えた時に絶望する。 「期待は、してはいけない。」 そっと呟く。 「私はそうは思わないのだけれど。」 驚いた。私が呟いた直後、部屋のドアが開いて声が飛んできた。 蒼菜だった。 彼女は陽の光を浴びて、まるで天使のようだった。 学校帰りのようで、私の見なれた制服姿で、手には色とりどりの菊の花束を持っていた。 「人は、期待をすることで期待を実現させようと努力し、それが実現することで更にこの先の未来に期待するのよ。」 そう笑って、ベットに籠る私の傍に、ぽすんと天使は腰掛ける。 私は声を捻り出す。 「何しに来たの。」 言ってから後悔した。なんで、私はこう素直になれないんだろう。蒼菜の声が聞こえた時はとても嬉しくて思わず涙がこぼれてしまったというのに。 「大事なお友達のお見舞いに来たの。」 天使は私に微笑みかける。そして手に持つ菊の花束を差し出す。 「きく、知ってる?菊の花言葉。」 私は微かに首を振る。 すると天使は手に持つ色とりどりの花束から1本の白色の菊を引き抜いた。 「白い菊、誠実・真実」 とん、と私の膝の上に乗せる。 そして今度は紫の菊を手に取る。 「紫の菊、夢の成就。」 紫の菊も白い菊と同じように乗せる。 そして次は桃色の菊を探り出す。 「桃の菊、甘い夢」 今度は二本の菊とは逆向きに置く。 そして、最後の1本。 「赤い菊、あなたが大好きです。」 天使は、蒼菜は、満面の笑みでーーーいつかと同じ、花開くように笑って、いつかと同じ魔法の言葉を紡ぐ。 「友達になりましょう?」 私と目線を合わせるように、ふわっと膝をつく。 「もう一度、私と友達になりましょう?そして、あなたの抱える全てを私に話して?私はあなたの力になりたいの。 これからはお互い悩みは相談し合いましょう。隠し事は駄目よ。だって私にはあなたが必要なの。あなたがいない学校なんで楽しくないんですもの。」 蒼菜は、いつも私の嬉しい言葉をくれる。そう、私が1番欲しかった言葉ーーーー。 「私は何があってもきくを裏切らない、ずっとあなたの味方よ。」 ぽろぽろと涙がこぼれる。あの時から、今まで私の味方だと言ってくれた人はいなかった。両親でさえ、心を閉ざした私とは距離をとっている。それなのに、まだ出会って少ししか経っていない彼女は私が欲しいものを全てくれた。 私が欲しかった言葉。 私が欲しかった友達。 私が欲しかった味方。 私が欲しかったーーーー。 「やだ。」 私は素直になるのが恥ずかしく、少し意地悪な言い方をした。 「え?」 蒼菜は目をぱちくりさせている。そりゃそうだ。 「蒼菜と友達でいるのはやだ。私は、蒼菜と親友になりたい。」 つっけんどんに言うと蒼菜は、ほわぁと笑顔をみせる。 私はものすごく恥ずかしくなり、布団に顔を埋めた。 「きく、明日から学校に来てくれる?」 「行く。」 「じゃあ、帰りにケーキショップによりましょ!桜は散ってしまったけれど、きくと一緒に大きなショートケーキが食べたいの!」 「え、そこはチョコケーキでしょ。」 「ショートケーキがいいの!」 私の高校生活が花開く。
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