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三年間も付き合っているというのに、彼女の好きな花も知らないなんて僕はなんて間抜けなんだろう? 誕生日にもクリスマスにも、花を贈ろうなんて全く考えもしなかったんだ。だけど、やっぱりその時にはどうしても花が必要な気がした。
「ねぇ、アヤ。好きな花って何?」
僕の部屋の小さなキッチンで珈琲メーカーをセットする彩香の背中に、そう話しかけた。出来るだけさり気なく訊いたつもりだったけど、やっぱり無理があった様だ。
「やだ、何? 急に? 占いか何か?」
振り返った彩香と目線が合わないように慌ててそっぽを向いたけれど、ますます怪しまれた気がする。
「うっ、うん。まあ、そんなとこ」
「ふうん」
「で、何が好き?」
勿論、占いの為なんかじゃないけれど。答えようとしない彩香にもう一度訊くと、今度は即座に答えが返ってきた。
「百合! 白い百合」
「百合かぁ、なんで?」
「あの凛とした立ち姿が好きなの。誇り高い貴婦人みたいで」
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