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◇◇◇
ーー放課後。
伊織と千鶴が通う高校から徒歩で15分ほどのところにそれはあった。12階建てのマンションのエレベータが6階で止まると、中からゆったりとした足取りで現れる二人はエレベーターのすぐ前の扉の前で足を止めた。
「じゃあ、鍵開けるけど……。」
玄関の扉に鍵を挿した千鶴は、確認するように後ろの伊織に声をかける。しかしそれは、伊織の準備が整っていることを確認したわけではなかった。
「いおりんのその格好、なに?」
「え?この呪符のこと?」
といいながら伊織は手にした数枚の呪符をひらひらと見せる。
「ちがう。」
「えー。じゃあ、なにさ。」
玄関の中に入った二人は靴を脱ぎながら続けた。
「なんていうか、そのー……陰陽師の服ってさぁ、平安貴族みたいな服ならわかるんだけどさぁ……。百歩譲って巫女さんみたいなのでもいいと思うんだよね。でもさぁ……。」
スリッパを出した千鶴は、その視線を伊織の頭頂に向けて問うた。
「なんで、うさみみのバンドだけつけて後は学校の制服なのさ?」
「最近は機能性重視だからね!簡易的な装束で済まさないと無駄に目立っちゃうし。」
「いやぁ、学校からうさみみつけてるのは十分目立ってたよ。」
千鶴は複雑な表情で帰り道の様子を思い浮かべた。
「それに、装束なんかなくたって、呪符さえあればだいたいのことは祈祷でなんとかできるし。」
「……ますますうさみみの意味がわからんのですよ。」
「まあ細かいことは置いといてさ、早いとこ怪異の起こるとこ案内してよ。」
「……はいはい、こっちだよ。」
伊織に急かされた千鶴は、廊下のつきあたりにある部屋へ案内した。その方角は艮。つまり、鬼門だ。
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