おんみょうじょは祓いたい

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 千鶴に案内された伊織がその部屋のドアを開けると、途端にあたりに腐臭が漂い始める。 「こ、これは……。」  そこは視界の開けたベランダを有するリビング・ダイニング。ダイニングに隣接したキッチンはきれいに片付けられていてこざっぱりとしている。そしてリビングには件のソファと絨毯が大型のテレビを前に鎮座していた。  しかし、その見た目とは裏腹に尋常ならないこの臭気。いうなれば、賞味期限の切れた納豆をそこら中にぶちまけた後に、これまた賞味期限の切れた牛乳をこぼしたような匂い。思わず伊織はその手で鼻と口をふさぐ。これまで遭遇した怪異の放つ臭気と比べても格段にひどい匂いだ。 「たしかにこの感じは……あやかしの類に違いないわ……。」  障りのあるあやかし案件であることを確信した伊織はすぐさまスマホを取り出し、シキガミーのDM《ダイレクトメッセージ》で中央退魔庁へと退魔開始の報告をする。 するとすぐにシキガミーのリプライが届く。 Status: Unknown Monster and Ghost CodeName: sofanomaenojutannyogosi Responce: Subjugation allowed. SeimanPoint: 4200pt  高セーマンポイント付きの退魔許可が降りた伊織が顔を上げると、千鶴がその鈍重な空気の中、ソファの元へと進んでいた。 「ほら、これみて。」  千鶴の指差した先の絨毯は、まるで激しいスライディングをした野球部員のユニフォームの如く汚れていた。 「今朝も掃除をしてから学校に行ったのに、もうこんなに真っ黒。洗剤で汚れを浮かせたあと、乾燥させたタオルで丁寧に拭き取ったんだよ?」  といいながら、千鶴が同じ手はずで絨毯の汚れを落とし始めると、絨毯の汚れがみるみる落ちてゆく。その手際の良さに千鶴の家事能力がなかなかのものと見た伊織は、ちょっとちーちゃんを嫁に欲しい、と思いつつも、おぞましい残り香に耐えつつソファの元へと近づいた。
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