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「さて、ちゃちゃっとやりますか。」
「じゃあ、あとはよろしくね。私は夜ご飯の準備するから。」
そう言ってキッチンへと消えていく千鶴の背中を見送ると、伊織は頭のうさみみをぶるんと震わせて九字を切り始める。
「青龍!白虎!朱雀!玄武! 勾陳!帝台!文王!三台!玉女!このソファの前の絨毯を汚し者よ!その姿を見せよ!」
とその時、玄関から元気の良い声が聞こえてきた。
「ただいまー!」
「おかえりー、タダシ。」
声変わりしたての野太くも高いその声の持ち主は、千鶴の弟である正であった。ドタドタと粗暴な足音が廊下に響きリビングのドアが開く。
「あれ、姉ちゃん今日早いじゃん。部活は無いの?」
「色々あって今日は休み。タダシはさっさとシャワー浴びなよ。」
「はーい。」
と返事だけは良いタダシは、冷蔵庫からアイスを取り出すと、九字を切り続ける伊織に全く気づかない様子で、裸足のままリビングのソファにどっかりと座った。あっけにとられていた伊織であったが、はたと我に返りタダシに話しかける。
「あのー……。」
「ん……。あ、姉ちゃんのお友達?こんにちは。」
今気づいたような様子のタダシは挨拶をすると構わずアイスを頬張る。
「あ、はい。こんにちは……。じゃなくて……。」
「どうかしたの?」
と、その時であった。先程まで鳴りを潜めていた納豆と牛乳が伊織の鼻腔をつんざく。
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