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「うっぷ……こ、これって……。」
タダシの足元から立ち上る臭気。感触が気持ちいのか、タダシは足を絨毯にこすりつける。すると見る見る間にきれいな絨毯が薄汚れていく。そのおぞましさに身震いした伊織はたまらず
「水虫清浄急急如律令!」
と唱え、伊織は手にした呪符をタダシの額に叩きつけた。
「あたぁっ!」
ベシぃという乾いた音とタダシの悲鳴がハーモニーを奏でると、伊織は
「ちーちゃん、私、帰るねー!」
と言い残して慌てて帰っていった。
◇◇◇
「せっかく未発見のレア妖怪だと思ったのに、妖怪ソファの前の絨毯汚しって、ちーちゃんの弟の水虫じゃん。」
妖怪ソファの前の絨毯汚しを知っていると啖呵を切った手前、自身のおんみょうじょとしての立場の危うさを感じた伊織はその場を逃げ出したのである。全速力でマンションを駆け出た伊織は、肩で息をしながら愚痴った。
「あーあ、またドーマンポイントついちゃうなー。」
それは怪異案件の誤報告に課せられるペナルティ。けれども入っててよかったセイメイ保険。幸い、伊織のペナルティは自己負担のドーマンポイント3ポイントまでで済んだのだ。
「まあでも、新種報告は間違いでも、最近は水虫も怪異扱いだからなー。妖怪の多様性さまさまだね。あー、祓った祓った。」
なんだかんだ退魔を終えたおんみょうじょ伊織は満足感で満たされていたのであった。
「それにしても、ちーちゃん、あの匂いの中でよく夜ご飯とか作れるよなー。」
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