引き出物はカタログギフトでお願いします

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「今日うち帰ったら……未来の嫁がいるんだよ」  テーブルを挟んで座る小林さんは、俺がいれてきたお冷やをひと口飲むなり聞き取りにくい声で、頭の中で花が咲きまくっているようなことを言った。 「へーぇ。今日の夜、結納でもするんスか?」  三月中旬、天気は快晴。  得意先回りをした帰りに上司と二人で寄ったファミレスは、ランチのピークを過ぎていたため、適度に空いていた。 「違う」 「じゃぁアニメかゲームキャラの、抱き枕かフィギュアでも届くんです?」  そういや小林さんに今恋人はいなかったんだっけ、と思い出した俺は、スマホをさわりながら雑な返事をする。 「違う。オレはそっち方面のオタクじゃない。ええっとな、だからその、あれだ。……ちょっとだけ、相談にのってくれないか?」  メニュー表を見るため、スマホ画面からはなした俺の視界に、雨に濡れた小犬のような目をした小林さんがうつる。 「俺じゃいいアドバイスできない確率高い気がしますけど、聞くだけでもいいなら」  『小林は文化系、伊藤は体育会系の正反対キャラだから、ちょうどいいだろう!』――という、いまいち納得出来ない理由により、部長命令で小林さんと組まされて約一年。  彼は基本的に真面目で堅実な常識人で、たまーにおごりで飲みに連れて行ってもくれる。  更につい最近、俺が仕事でやらかしたことの尻拭いを、彼にしてもらってもいる。  正直面倒だなと思ったが、無下にはできなかった。 「家に帰ったら未来の嫁がいる、なんて突然言われても、マンガかラノベかよな話で、意味不明なんですけど?」 「……一ヶ月くらい前、馴染みのバーで飲んでたら、隣に座った知らない女に話しかけられたんだ」 「おっ、逆ナンされたんですか! 美人でした?」 「うーん……。結構、そこそこ……かな?」  小林さんがこういう言い回しをするということは、上の下以上の見た目な女性なのだということを、俺はこの一年間のつき合いの中で学んでいる。 「『こんばんは』と挨拶された後、『私とあなたって、三年以内に結婚するらしいですよ?』と、いきなり言われてさ」 「スピリチュアル系地雷女?! うわー……御愁傷様です」
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