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「中峯がかえって俺のことを庇ったって、佐倉から聞いて……学校で会えるのも今日が最後だから、きっちりと謝って来いって」
「佐倉君が?」
その名前に桃花の心臓が小さく跳ねたような、熱を覚えた。
別クラスの佐倉悠は、学級委員の仕事で式典の後片付けを手伝っている。人には無関心な普段のそっけない風情から、そんなアドバイスを西脇に教えるなんて意外だった。
「中峯が許さないっていうなら、仕方ないけど……」
語尾が消えかかる西脇に、桃花は小さく首を横に振った。
「西脇君、謝ってくれてありがとう。この話はこれっきりにしようね。次に会う時を、楽しみにしてるから」
西脇は顔を輝かせる。桃花は「じゃあね」と言い残して、その場を去った。わだかまりが解けたことを、佐倉に早く会って話したい。
明日はホワイトデーだから。卒業式の帰りに、待ち合わせを提案してきた佐倉は初めて見る思いつめた横顔だった。桃花はロマンティックな空気を察して、緩んだ表情に嘘は付けなかった。
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