【2000字掌編】桜の微熱

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 発端は入学して間もない頃のことだった。制服のサイズが大きく不格好だった桃花を、同じクラスの西脇がからかったのだ。桃花の家は裕福でなく、近所の人から譲ってもらった制服で、それも含めて泣きそうなほどに落ち込んだ。  見かねたのか、庇ってくれたのが佐倉との出会いだった。 「いや、礼を言うのは僕の方だ。中峯がいなかったら、西脇に対しても嫌な奴としか思わず、大人になるところだった」  俯いた佐倉の学生服の胸元で、在校生がくれた赤い薔薇が揺れた。  当時、からかいにショックを受けた桃花に「あいつ、中峯を妬んでるんだよ」と佐倉が穿った意見を口にした。 「この前、国語の小テストで褒められたろう。西脇の奴、僕にも突っかかってくるから参ってる」 「人気者だものね。怖いんだ、不安に負けちゃうのが。何となくわかるな」  桃花の呟きに、佐倉が意外そうな表情をしたのを覚えている。  あの時の出来事を、3年間彼なりに考えていたのだ。
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