【2000字掌編】桜の微熱

6/7
前へ
/7ページ
次へ
 思い出に耽る桃花は、佐倉の声で我に返った。 「バレンタインデーに女の子からチョコを貰ったのも、中峯が初めてだった」 「あれはみんなにあげたんだけど……」 「それでも、僕には特別に感じたんだ」  時計台から正午のメロディーが流れる。桃花は膝の上で握った手に力がこもった。  彼への想いはまだ恋愛未満とはいえ、可能性を秘めた淡い煌めきを帯びていた。今、佐倉から想いを告げられたら、前向きに考えよう。 「中峯といると、不思議と安らいだ。ただ話をしているだけなのに、何故こんなにも心が弾むんだろう。そう思って、図書室へ行くのが楽しかった」  緊張して固まっている桃花は、佐倉の告白が素直に嬉しかった。  温かな感情の渦に、『好き』という言葉が浮かび上がる。 「中峯、僕と……」 「何でしょうか」  佐倉は言葉を切って押し黙る。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加