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「佐藤さん。ここの表の数字が去年のままですよ。先方には私から提出期限を伸ばして頂くようメールをしておきますので、今年のものに直して、もう一度提出してください。五時半までに出来そうですか? 」
「あ、はい! 何度も同じような失敗をしてしまってすみません、課長。必ず間に合わせます」
佐藤さんは間違いを指摘するといつもペコペコと謝ってきます。まるで、何かのような……そうだ。福島のアカベコという、首をふる牛の張り子人形のように。
「大丈夫ですよ。以後気をつけてくださいね」
私はいつも彼にそう言います。別に失敗したのならやり直して正しいものにすればいいだけの話なのだから。こんなことにいちいち腹を立てていては身が持ちません。こういうことは事務的に処理していけばいい話なのです。
ところが中には違う人間もいて。
「はぁ? まだあんな簡単な資料作れてねえの? マジであり得ねえんだけど……お前、そんなんでよく給料もらってるよな? ズルくない? 」
隣の席の宮原がまた彼に噛みつきだしました。何故かいつも佐藤さんだけにああやってあたりが強いんです。弱そうで優しそうな人を捕まえて、優越感に浸りたいのでしょうか。仕事は出来ますがあの考えはいただけませんね。人によって手のひらを返したように態度が変わるというところも。一度忠告した方がいいものかどうか……しかし私から言ったところで、根本的解決にはならないでしょうね。結局私の目の届かないところで、佐藤さんは更にいびられ続けるのでしょう。宮原という男はそういったところ、うまく立ち回ることが出来るようだから。
あ、佐藤さんがまたアカベコみたいにペコペコと首をふっている……
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