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「あんた最近物忘れ激しくない?
今日は二十六日よ」
その言葉を聞いて俺は後ろに掛かってあったカレンダーを見た。カレンダーは八月の物で、二十六日のところを見ると木曜日と書かれていた。
『八月二十六日……木曜日か』
俺は心の中でその言葉を反復すると、扉に手を掛け外に出ようとした。すると、俺の母親らしき人物はいきなり声をあげて俺にこう言った。
「そういえば、今日はあの子来てないわね。
最近あの子が来るのが楽しみで楽しみで仕方なかったのに……」
彼女の言うあの子とは誰なのか、今の俺には見当もつかなかった。
しかし、知りたいとも思わなかった。
極力……人と関係なんかをもちたくなかったから……
「じゃあ、行ってきます」
俺は扉を開け外の世界へと飛び出した。
ちっぽけな人間にとっては限りなく広い空間のはずなのに、俺には密閉された個室のように狭く、限りあるものに感じて止まなかった。
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