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八月二十五日(水曜日)
「圭……圭一君。朝だよ。
起きよ、ね?」
まだ頭が困惑している。
俺の身体はまだ睡眠を必要としているらしい。
「ほら、早く起きて支度しないと。
ね、起きようよ」
ユサユサと俺の体を手で揺らしながらそう語りかけてくる声に耳を傾ける。
寝ぼけた俺の頭ではいまいち頼りない判断しかできないが、そんな俺にもこの高く響く声が女のものであることくらいは把握できた。
俺はとりあえずベッドから体を起こすと、目がはっきりと覚めるまでその体勢でいた。
もとより、彼女に言われずとも俺は起きるつもりだった。
もし起きずに寝てしまったら、きっともうここにはいられないだろうから。
「はい、制服だよ。学校行くんだよね?」
そう言って彼女は俺の制服らしき物を差し出してきた。
学校に行くのか?そう言われて俺には返事をする事なんて出来なかった。
まあ、これと言ってなにをしなければいけないのかも定まっていなかったので、俺はとりあえず言われるがままに制服を着た。
「あら?圭一起きたのね。
毎度毎度ありがとうね雪菜ちゃん」
俺の母親らしき人物は、隣にいる少女の事を雪菜と呼んでいた。
しかし、彼女がなんであれ俺には関係がない。
どうせすぐに会わなくなるのだから…
俺はいつもの調子で玄関に行って靴を履いた。これだけがここ最近唯一と言っていいほどの、決まった行動だった。
俺は扉を開ける前に今一度振り向きカレンダーを見る。
『八月…二十五日』
それだけを確認すると、俺は外へと歩き出した。少しして、雪菜と呼ばれた少女も追うように外に飛び出てきた。彼女は家の前に自転車を置いていたようで、自転車のロックを外すとサドルに跨り、俺の後を付いて来た。
「圭一君、今日もいい天気だね」
「…」
俺は彼女の言葉が聞こえてなかったかのように無視をする。それでも、彼女は執拗に俺へと話しかけてきた。その都度に、俺は彼女の言葉を無視し続けた。そして、少しずつ彼女の口数が減ってくると、急に自転車を止めこう言った。
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