楽しそうな妹

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スプーンがお皿に当たる音がする。  そんな音がとてもいい音色だと思えるほど、平和な夜だった。 「ねえお姉ちゃん。カレー美味しい!」 「うん。よかった」  私は笑った。  うちには、いつも楽しそうな妹がいる。  楽しそうな妹は、うちにしかいない。 「お姉ちゃん、今日の夜、一緒に遊べる?」 「うん。遊べるよ。何する?」 「うーんとね、オセロ」 「わかった」  そうして私と妹は、夕飯の後にオセロをすることにした。   「くる、ぽん、くる、ぽん」  妹がそうリズミカルに言いながら、黒を裏返して白にする。  私もそれに倣って、 「くる、ぽん」  と裏返した。  妹が、手加減なしでね! と言ったので本気。  そしたら、本気を出しすぎたのか、私の調子が良かったのか、圧倒的に私の黒が優勢になって行った。 「白、なくなっちゃうかも。お姉ちゃん強すぎるよー」 「えへん」  結局、白は一つだけ残った。  そんな盤面を眺めて、妹は言うのだ。 「なんだか私らしい結果だね!」   ⭐︎   ◯   ⭐︎   妹は、最近学校に行っていない。  けれど、学校に行っていた頃よりも、徹底的に、楽しそうにする。  だからうちにはいつも、楽しそうな妹がいるのだ。  妹が学校に行かなくなった理由は、変わっている自分のことを馬鹿にする人が多いからだという。  実際、どのくらい馬鹿にされていたのか、私はわからない。  情けないことに私は、家で妹と過ごす時間以外は、自分の高校生活で精一杯なのだ。  今日も朝から授業に昼練、昼部会、午後の授業に部活、そのあと課題を完成させてから家に帰るとくたくた。  明日は部活がないからちょっと余裕あるけどやっぱり木曜は辛いなあ。  そう思いながら家のドアを開けると、 「おかえり!」  楽しそうな妹が迎えてくれた。 「ただいま」 「夜ご飯の下準備しといた!」 「ありがとー」  いつもの家の雰囲気があっという間に構成される。  私はそんな空気に包まれながら、スマホを開いた。  部活の友達から連絡が来ていた。 『明日、うちで遊ぼ』  部活のない日、よく家に来るよう誘ってくれる友達だ。  わたしは思った。  たまにはうちに来てもらおう。  もしかしたら、いろんな色を、妹に見せられるかもしれない。    次の日。私は友達二人を連れて帰宅した。 「おかえりー!」  今日も楽しそうな妹が、玄関に現れた。 「あれ?」  そして現れてすぐ、首を傾げた。 「友達、連れてきた」 「あ、はい、どうぞいらっしゃいませです」  妹は少しびっくりした後、三歩くらい下がって、下を向いた。   「ゲームしたいな」 「やろうー」 「一緒にやる?」  わたしは妹を誘ってみた。 「やる」  そう妹は答えた。   それから、妹も交えてゲームをした。 「次何やりたい?」  わたしの友達が、妹にそう話しかけた。 「なんでも、いいです」  ちょっと妹は遠慮しているみたいだった。   それはそうだろうなとは思う。  だっていきなり知らない人が来たのだから。    それからさらに遊んで友達が帰った後。  妹と二人の家になった。  そしたら、妹は私に言った。 「お姉ちゃん、今日お友達とほとんど話してなかったね」 「うん。だってしゃべるの、苦手だもん」 「馬鹿にされないの?」  人と話すのがとっても苦手な姉に、人と話すのが苦手な妹が訊いた。 「されないよ。それが友達。誰かを馬鹿にする人は、私は好きじゃないもん」 「そっか。私、別にしゃべんなくても怒られないの?」 「無理してしゃべんなくていいよ。怒られないよ」 「でも口数が少ないだけで、変な人だと思われるよ」 「変な人って、人から言われて確定するものじゃないでしょ」 「たしかに」  妹が笑って……雰囲気とともに物理的に明るくなり。  家には私、一人だけだった。  息を吐いた。  シュミレーションはおしまい。  私はベッドに入った。  「妹」と同い年のころから、ずっと一人の私。  そんな私は、明日、学校に行こうと思う。
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