あくがるきみとぼく

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 今日もこれといったことをせずに部活は終わってしまった。  彼女と話をしているとあっという間に時間が過ぎてしまう。  他愛もない話ばかりをしていて、なんて不毛な時間を過ごしているんだと思わなくもない。でも、彼女と話すのは嫌いではない。寧ろ、彼女と話すことに心地よさすら感じている。  素直に認めよう。ぼくは彼女と話すのが好きなのだ。彼女と過ごす時間が楽しくて、彼女と一緒にいられるのが嬉しくて仕方がない。  彼女は携帯端末を持っていないから、携帯端末を使って自室で気軽に話すことができない。  彼女の自宅に電話する勇気など、ぼくにあるはずもなくて。……それに、もし家で電話なんてしたら母に聞き耳を立てられるかもしれない。そして、もしその電話の相手が女子だと知られたら、からかわれるのがオチだろう。……ああ、想像するだけでも恐ろしい。  だから正直な所、電話など使わなくても家で彼女と話ができて嬉しいと思う。  それがたとえ生霊だとしても、体力的にも精神的にも疲れるとしても、だ。  彼女の言動一つで気持ちがふわふわしたり、落ち着かなかったり、上の空になったりして……時々何とも言えない感情に押し潰されそうになる。  文句を言いつつも、ぼくは彼女に弱い。昨日の金縛りしかり、他にも散々なことをされてきたが、結局最後には許してしまうのだから。  どうしてかなんてそんなこと――まあ、わかりきったことなんだけど。 「おーい、何ぼーっとしているの?」 「……別に」  自転車を引きながら、夕色に染まる一本道を彼女のペースに合わせてゆっくりと歩く。  部活が終わった後、電車通学の彼女を最寄りの駅まで送っていくことがぼくの日課だ。  生霊となってしまう彼女も今は普通の人間だ。ふわふわと宙に浮くこともできないし、物を浮かせることも金縛りにすることもできないただの普通の女の子なのだ。  だから、ぼくは別れ際にいつも言う。 「気を付けて帰るんだよ。もし変な人と出くわしたら大声で叫んで直ぐに逃げること」 「……あのさ、いつもいつも同じこと言わなくていいよ。何度も言われなくてもそんなことわかっています」 「じゃあ、生霊になってぼくの目の前に現れるのはやめてくれ」 「だがそれは断る!」  冗談半分、本気半分でここぞとばかりに言ってやれば、彼女は即答で拒否してきた。  その後、お互いにくすくすと笑い合うのはいつものことだ。 「それじゃあ、また後で」  ――まあ、わたしが生霊になれたらだけどね。  悪戯っぽく笑って、彼女は身を翻して改札口の方へと向かって行く。長い髪が彼女の歩調に合わせてゆらゆらと揺れる。  夕日の光を浴びて儚げに見えるその姿に見惚れながらも、「また後で」と彼女に声を掛けるのもぼくにとってはいつものことで。  何だかんだ言っても、生霊であろうと普通の人間であろうと、やっぱりぼくは彼女に会えるのが嬉しいのだ。  どうしてかなんてそんなこと――まあ、惚れた弱みってやつで。  うわの空になっているぼくのこの状態もきっと『あくがる』というのだろうな。
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