供儀

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 途端に心の奥底に沈んでいた記憶が急激に浮かび上がってくる。 かつて彼と何度もなんども、同じ様にしてはお互いの欲望を満たし合っていた。 『好きだったから』、『愛していたから』だと今ならば思えるが、当時は『ただ、したいからしていただけ』だと思っていた。  それはたった一年にも満たない、短い間だった。 あれから十数年経っているのでおれも彼も体付きが大人のものへと変わっていたが、分かった。 彼だった。  体の、最も正直な箇所が物語ってくれている。 「そう、ぼくだよ。逢いたかった」 と。 おれが知っている彼に違いなかった――。  体中に在る熱が血となって、下半身の一点へと集まる。 瞬間、接していた彼の体がグラリと揺れる。 そして、すばやく離れて行った。 「待って‼」  手を伸ばせるものならのばしたかった。 彼を捕まえたかった。 せっかく又逢えたというのに、もう離ればなれになるのは嫌だった。  神使とか供儀とか、呼び名なんかはどうでも何でもいい。 おれはただ彼と一緒にいたかった。  おれの頬をあの硬い板、――多分ヒレが掠める。 その後すぐに下半身がヒヤリと冷たくなった。 水の冷たさではなかった。 それだけではなくて、滑りがあるものにすっかりと包み込まれる。 「あぁ――」
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