供儀

5/5
前へ
/8ページ
次へ
 彼の口だった。 すっぽりとおれのを全て収め切り、吸い出すようにして圧を強めたり弱めたりする。 まるで、おれを飲み下そうとしているかの様だった。  あぁ・・・・・・そうだった。 彼はもう、神使だ。 竜門の滝の主の名代だ――。  彼が求めているのは、かつてのようにおれではない。 未婚の男の精だ。  そう思っても気が付いてもなお、おれは少しも悲しくならなかった。 このまま何時までも供儀に選ばれ続けないよりは、いい。 彼に届くか分からないままに(いたずら)に、精を滝つぼへと垂らし続けるよりはずうっといい。  手を目を縛められているおれが出来ることは彼を想い、彼にこの身の全てを委ねることだけだった。 今や、神使である彼の口自体が滝つぼそのものだった。 底無しの淵の奥へと、主の御座へと引っ立てられて行くかのような心持ちだった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加