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瞬間、ぼくは彼と目が合ったはずだった。
そのことはおろか、彼の顔や体もまるで分からない。
ぼくの目は病のせいで落ち窪み、ほとんど見えなくなっていた。
ただ、口だけが彼自身を確かめることが出来た。
彼は最後にぼくの姿を見たのだろうか?
見えたのだろうか?
病を得た印の真白いウロコに覆われた、上半身は魚である今のぼくの姿を――。
答えを聞くことが出来ないままに、彼の体は亡骸は滝の淵底へと引き寄せられていった・・・・・・
辿り着いたそこに、――底に降り積もるのだろう。
他の供儀たちの亡骸の上に。
ぼくは彼の気配が全く感じられなくなってから、一目散に御座へと向かった。
必至にヒレを動かし、脚をばたつかせて。
少しでも早く主へと、供儀の精を捧げるために。
これがぼくの神使としての最後の務めとなる。
主は病が進んだぼく毎、彼の精を取り込むことだろう。
何時か、遠いいつの日にか主が滝を上り竜として天に至ったその時には、ぼくは主の中に彼と一緒に在る。
間に合った彼にも主にも、声なき声でこう言いたかった。
ただ一言、「ありがとう」と――。
終
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