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供儀
その儀式は、いつの頃からかとうに定かではないが『御滝の儀』と呼ばれ続けている。
供儀に選ばれた村の未婚の男が、竜門の滝の主にその精を捧げ尽くすのだ。
主が天へと昇り、かつての竜の姿と化すのには男の精を要すると頑なに信じられている故にだった。
誰も目にしたことがないはずの滝の主の今の御姿は、黄金の大鯉であるとまことしやかに伝えられている。
村人たちは、我らこそはかつて天に在った竜の直参の裔だと自負している。
地に堕とされ、深い淵へと沈められ鯉に変じた主を再び天へと還すのは永年の悲願、――村人たちの総意とされていた。
正直、おれにはどちらもどうでもよかった。
主の正体も、他の村人たちの『総意』も。
おれは神使のなりそこないだった。
村では、その年に精通があった男の子供を竜門の滝つぼへと突き落とす。
そうして這い上がってこなかった子供は主に仕える身、神使に選ばれたと見做される。
――おれと一緒に突き落とされたはずの彼は、いくら待っても結局上がってこなかった。
十数年後、すなわち今年にとうとうおれは供儀へと選ばれた。
神の籤をようやく手繰り寄せた心持ちだった。
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