校名を特定しないで下さい

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ぜいぜい、俺はありったけの声量で叫んだので 思いっきり息切れを起こしてしまった。 そんな俺を隣の彼が心配そうに見ていて、 生徒会長は、俺の息切れが収まるまで黙っていた。 そして俺の呼吸が静まった時、 生徒会長が椅子から立ち上がり、 扇子を取り出し、持ち手の反対の手をぽんぽんと打つと、 「何故文化祭で乙女ゲームの世界を演劇するのか。 それは一言で尽きる。『戦略』だよ」 オレとふわふわ(茶色に近い黒髪の彼)君 「『戦略』?」 俺がオウム返しに聞き返すと、 「考えてもみたまえ。我が校は男子校だ。 男子校ならではの良さも確かにあるが、 やはりどこかむさ苦しくガサツだ。 女子生徒と仲良くしたくても ここは山の中。出会いを求めたくても、 時々出会うのは山登りを楽しむ熟年女性に 山菜取りに興じる人生のベテランの老婦人、 そして週に一度の外出するふもとの町は 過疎化が進んでいるという環境だ」 「はぁ、確かにそうですね。 でも、その環境を覚悟の上で選択して 入学したのは生徒本人の意思によるものであり 煩悩は般若心境でも聖句でも唱えて 浄化すべきものではないのでしょうか」 すると生徒会長は手に持っていた扇子を 優雅な仕草で開くと 「確かにこの日本では本人の選択の自由が認められている。 だが、人とは弱い生き物だ。 初心忘るるべからずとはいえ、今はネットが発達し 女子生徒と仲良く遊ぶ中学時代の友人からのSNSなどを 見てしまうと、なんとも言えぬ虚しい気分になるのは 必定と言えよう」 生徒会長が窓辺に立って俺たちに背を向けて続ける。 「そこでだ。文化祭の演劇で乙女ゲームを舞台化して、 我が男子校の校訓、”文武両道品行方正紳士たれ”をアピールすることに したのだ」 「それって、イケメンぞろいの男子生徒に攻略対象として 演じさせて、おんにゃの子を集めさせる作戦って ことですね」 生徒会長が振り返ってにっこりと笑うと 「そうともいうね。という訳で引き受けてくれないだろうか。 ヒロインと悪役令嬢を」 それって俺達になんのメリットもなくね?
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