信仰を貪る魚

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 ”ここにいる。ここにいる。ここにいるよ。”  家に帰ると、池の中には何にもいなかった。  金魚たちの死骸は、もう無かった。  お母さんが埋めたのか、隅の方の土が不自然に盛り上がっていた。  ”ここにいる。ここにいる。ここにいるよ。”  声は、止まない。  ”ここにいる。ここにいる。ここにいるよ。”  私は、なんにも言わない。  誰にも言わない。  ”信じて。信じて。私を信じて。”  抜けた自分の歯を部屋から取ってきた。  何本もの歯を、手のひらの上に乗せて。  やっぱり不自然に濡れている廊下を、走った。  泣きながら。  泣きながら。  池の中には、何にもいない。  ”ここにいる。ここにいる。ここにいるよ。”  声だけが、聞こえている。
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