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ある日、家の廊下で魚が跳ねていた。
苦しそうに、はたまた楽しそうに、ばたばたと跳ねていた。
廊下が濡れている。それは綺麗な一本道を作っている。
私は導かれるかのように、その道を辿った。庭の池に繋がっている。
そうだ。昨日、ここで金魚が一匹、死んでいた。
ぷかんと浮かんで。あんぐりと口を開けて。そういえば、何かを言っているように見えた。
”信じて。信じて。私を信じて。”
そう言っているように。
その声を、私はいつ聞いたのだろうか。 昨日、魚の死骸を見たとき? それとも、今、廊下の先で……。
私はまた、呼ばれるように、廊下へと戻った。ばたばた跳ねる魚を手ですくい、靴下を濡らしながら、水浸しの廊下を、歩く、歩く。
そして、お母さんに見つからないように、こっそり魚を池へ戻した。
魚はしばらく浮かびあがり、呆然と、時間を貪り食うようにした。死んでいるようだった。
力尽きてしまったのだろうか?
”信じて。信じて。私を信じて。”
また同じ声が聞こえて、はっと池を見渡すと、魚はいなくなっていた。
「どこ?」
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