思い出の錦江湾

6/10

13人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
 家の周りは同じような平家が並んでいた。マンションだらけの大阪とは大違いだ。上を見ると、空がやけに大きく見える。  おじいちゃんと僕は、石垣で挟まれた道を進んでいく。道端には背の高い雑草があちらこちらに生えていた。砂利道で、緩やかな下り坂となっており、気を抜くと転びそうだった。おじいちゃんは振り返りもせず大股で進んで行く。僕は遅れないように駆け足でついていった。  おじいちゃんは歩いている間、何も話さなかった。僕は無言の背中を見続ける。今日、会ったばかりのおじいちゃんと話をするのも怖かったが、何も話さないのも気持ちが悪かった。 「ほら」  しばらくして、おじいちゃんが急に立ち止まる。すぐそこにあったのは、砂浜だった。僕は足を取られないように一歩、二歩と慎重に砂の上を歩く。そして、顔を上げると、そこには海が広がっていた。真っ青で、太陽の光を浴び、キラキラと輝いている。  心臓がドクンと跳ねる。その海は、あまりに大きかった。大阪湾とは全く違う。どこまでも続く、大きな大きな海だった。 「わっぜい、よかろが」  おじいちゃんの言葉に、僕はうなずく。言葉が出なかった。何でも飲み込んでしまいそうなほど大きな海、見ているだけで心が躍り、興奮していた。いくら見ていても、全く飽きなかった。潮騒の中で、僕はいつまでも輝く海を見つめていた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加