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私の好きな人はもうすぐ結婚する。 どうして何も言えなかったんだろう。 ずっと好きだったのに。 同じクラスだったこともあったのに。 すべてが遅い。 私が好きだった緑川くんは、沙織と結婚式を挙げる。 ――どうして。 私と沙織はずっと昔からの幼なじみ。 一緒に遊んで、同じ学校へ通って、違う相手に恋ができれば――。 『あたし、緑川くんのことが好きなんだ』 沙織からそう聞いたとき、どうして『私も』と言えなかったんだろう。 『蕾にも彼氏が見つかるといいね』 ――花崎蕾。 冗談みたいだけど、これが私の名前。 とても華やかな名前だけど、実際の私の容姿ははっきり言って中の下。 『花崎蕾っ!? え、どこの美少女っ!?』 『かわいい名前っ!? どの子だろっ!?』 『あの子、かわいい!! あの子かな!?』 その場合、声を掛けられるのは大抵沙織のほうで。 そこまではまだいい。 『え? 違いますよ。蕾はこの子ですよ』 どうでしょう、この子かわいいでしょう? というノリで私の肩に手を乗せるのは止めて欲しかった。 『え、あ、うん。……かわいいね』 『行こっか』 『……そだね』 その流れは中学、高校と進んでも変わらなくて。 そのうち、『咲かないから蕾なんだろう』って言われ始めて。 (私はいつまでも咲かない『蕾』じゃないっ!!) 私だって。 「え!? 今度うちに泊まりたい? いいよ」 「これがいいの? ふふっ、お揃いだね」 「ごめんね。さすがにデートには。今度、蕾に彼氏できたらダブルデートしようね」 ――ここで速報です。○○市××駅前の喫茶店に車が追突する事故が起きました。この事故により、店内にいた女性が四人、病院に搬送され、その内のひとりが重傷とのことです。 ある病院の一室。 室内には頭から爪先まで包帯に巻かれた女性らしき患者がいた。 微かに見える唇には呼吸器が取り付けられ、それがときおり曇るので彼女がまだ生きていることが分かる。 「……残念ね」 病室にいた女性が呟いてくすり、と笑った。 「明日の式は延期にはならなかったから」 あでやかな笑みを浮かべた女性はそれだけ言うと病室を後にした。 受付を抜け、病院の外へ出たところでスマホの電源を入れる。 『もしもし、花崎さんのお宅ですか? あたし、沙織です。いつもお世話になっています。申し上げにくいんですけど、事故のショックだと思うんですが。彼女、自分のことをあたし、藤原沙織だと思い込んでるみたいで』
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