12人が本棚に入れています
本棚に追加
あたし、藤原沙織には親友がいる。
性格も見た目もとてもいい子で。
名前はね、花崎蕾。
とても素敵な名前でしょ?
最初に会ったとき、蕾は花を摘んでいたの。
『はい、どうぞ』
そう言ってにっこり笑ったその顔がとてもかわいくて。
(お花みたい)
なのに、
『いいよ。沙織ちゃんが行きなよ』
『そうだね。沙織ちゃんならできるよ』
『私はいいよ』
学年が上がるにつれ、自分のことを言わなくなった。
一緒に遊んで、同じ学校に通って、恋をして――。
蕾が緑川くんのことが好きだって、すぐ分かった。
だから――。
『あたし、緑川くんのことが好きなんだ』
きっとそう言えば蕾も自分の気持ちを話してくれる。
だって好きな人のことなんだから。
だけど、あたしの予想は裏切られた。
『そうなんだ。……応援するね』
(どうして? そんな寂しそうに笑うくらいなら、私も好きなのに、って怒ってくれた方が何倍もよかったよ)
蕾の反応を試すうちにあたしが緑川くんと付き合うことになってしまった。
『おめでとう』
(違う違う違うっ!! あたしが聞きたいのはこんな言葉じゃないっ!!)
『蕾にも彼氏が見つかるといいね』
半ばヤケになって紡がれた言葉に、蕾は曖昧な笑みを返すだけで。
どうして。
ねぇ、どうしてそんなふうに笑うの?
あたし達、親友じゃなかったの?
それともそう思っていたのはあたしだけ?
澱のように心の奥底に溜まっていくものを感じ出したのはこのころから。
あたしは蕾のことが好きだよ。
だったら、蕾はかわいいって知ってるのはあたしだけでいいんじゃない?
わざと蕾には似合わない色の服を勧めた。
似合わない髪型。
肌にマッチしないメイク。
『かわいい!! よく似合ってるよ!!』
蕾の魅力はあたしだけが知っていればいい。
ねぇ、あたしだけの蕾でいて。
――それだけでよかったのに。
最初のコメントを投稿しよう!