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『え!? 今度うちに泊まりたい? いいよ』 こんなの、始めてだ。 始めて蕾が自分から言ってくれた。 きっと自分の気持ちを話してくれる。 緑川くんのことだって。 だけど――。 『……蕾?』 『え、何?』 『ううん。何でもないよ』 何かがおかしいってすぐに分かった。 (……観察されてる?) あたしだって蕾のことをずっと見てきたのだ。 それくらいすぐに分かる。 (でもどうして?) 一緒にショッピングに行ったとき、蕾はあたしと同じ服を選んだ。 『これがいいの? ふふっ、お揃いだね』 (前は嫌がっていたのに) だんだん分かってきた。 蕾はあたしになりたいらしい。 同じ服を着て同じメイクをして同じ所作をして――。 (どうするつもり?) そのうち面白いことが分かってきた。 (整形外科? ……事故を装って、ふうん。そうなんだ) そんなひと昔前のドラマみたいなこと、できるわけないのに。 (何でもネットで方がつくわけないじゃない) あんなゲス共に餌食にされるくらいなら、あたしが――。 ――ここで速報です。○○市××駅前の喫茶店に車が追突する事故がありました。この事故により、店内にいた女性が四人、病院に搬送され、その内のひとりが重傷とのことです。 ある病院の一室。 頭から爪先まで包帯でぐるぐる巻きにされた女性は身動きすらしなかった。 (これでやっと……) 「……残念ね」 (これでも何度か逃げ道を作って上げたのに) あなたの気持ちはあたしが全部、貰うからね。 「明日の式は延期にはならなかったから」 受付を抜け、病院を軽い足取りで出るとスマホの電源を入れる。 『もしもし、花崎さんのお宅ですか? あたし、沙織です。いつもお世話になっています。申し上げにくいんですけど、事故のショックだと思うんですが。彼女、自分のことをあたし、藤原沙織だと思い込んでるみたいで』
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