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はぁー
ベッドにカバンを投げ置きネクタイを緩める。一ヶ月ぶりの実家の自室で深い溜息をつく。
また月末がやってきた。こなしてもこなしても終わることなく山積みとなって襲って来る業務、自分の無能さを棚に上げ部下にミスを押し付けるクズ上司。溜息の原因ならいくらでもある。だがそれらは、これから迎え入れる鬱屈とし時間を思えば些細なことでしかない。
いつからだろう家族で過ごすことに苦痛を感じるようになったのは。
実家から職場は十分通える範囲内にあるが就職を機に家を出た。子どもの決断に意見などしたことが無い母だったが、そのとき初めて条件を出した。といってもはっきりと条件として突き付けられたわけではなく、俺がそれを条件と受け取っただけなのだが。
月に一回は帰ってきてね。息子が近場で一人暮らしを始めると言えばそのくらいは言うだろう。だが母にとってそれは離れると寂しいとか、ちゃんと生活出来るか心配とかそんなありふれた意味ではなく、俺を家族に繋ぎ留めて置くための重要な鍵だった。
着替えを済ませ、整えられた髪をワシャワシャと無造作に崩し、もう一度大きく息を吐く。両頬をパシパシと叩き鏡の前で口角を上げてみせる。
笑顔が自然に見えるように。
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