エピソード2

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エピソード2

今週は忙しい。 けーちゃんはとても暇そうだ。 コーヒーを両手で抱えて、 何日か降り続いている雨を、 窓から眺めていることが多い。 「雨の模様が気持ち悪くて癖になる」 とか謎のことを言っている。 「統二忙しそうだね」 「うーん 今週は予定いっぱいかも」 「そっか」 つまらないです、と顔に書いてある。 でも仕方ないよね?実際忙しいんだし。 少しけーちゃんを抱きしめて、 「ごめんね」と言う。 でもけーちゃんはそう言うのに敏感だから、 僕がご機嫌取りにおざなりで、 そうしたことに気づいてしまう。 そっと胸を押し返されて、やっぱりね、と思う。 思うけど、今は自分のことで精一杯。 そんな時はふと思ってしまう。 『けーちゃんも大人なんだから わかってよ』 そんな言葉を飲み込んで、 「行ってきます」 もやもやしたまま家をでる。 その日はフリースクールで子どもたちの話を聞いた。 そのあと先生が淹れてくれたお茶をいただきながら、 ふと1人の生徒が目に留まった。 窓際の棚に肘をついて、 窓を流れる雨をじっとみている。 けーちゃんみたい、と思った。 「なに見てるの?」思わず声をかける。 「あっ統先生(とうせんせい)。 雨、雨の模様だよ」 やっぱりけーちゃんみたいなこというなぁ。 「へぇ」 なるほど。 窓に打ち付ける雨が流れ落ちるさまが、 模様を描くように見える。 けーちゃんもこれを見たんだ。 「きれいなんだけどね。 時々アリの巣やミミズに見えるのもあるんだよ」 「はは…ミミズはいやだなぁ」 ミミズは別に好きでも嫌いでも無いけど、 窓をこんなに流れてたらいやかも。 「わたしもミミズはちょっといや」 僕たちは笑いあった。  なんか今すごくけーちゃんに会いたいな。 窓を見つめるこの子をみて、 僕は無性にそう思った。
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